- 別冊 花とゆめ 2013年 04月号 [雑誌]/著者不明
- ¥540
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書店で雑誌の表紙を見るなり、思わずおおーっと声をあげてしまいそうになりました。
菅野文の新選組もの!
いやあ実に8年ぶりですよ。この人の「凍鉄の花」シリーズや「北走新選組」シリーズは、何というか「本人を直接にはなるべく描かないことによる土方歳三もの」という感じです。個々の物語の主人公は沖田総司や野村利三郎や相馬主計なのですが、しかしシリーズ全てを通して読者に最も強く印象づけられるのは、沖田や野村や相馬らが常に強烈に意識せざるを得ない土方歳三の絶対的な存在感なんですね。
そして今回、その目を通した土方像を描き出す役割を担うのは斎藤一、これはもう待ってましたという感じです。まさか8年も経ってからまた読めるとは、と感慨にふけったところで気がつきました。
斎藤一と土方歳三の物語にするとなれば当然会津戦争の話抜きではありえず、つまりこれは大河ドラマ「八重の桜」便乗企画(タイアップ企画?)な訳であります。
とはいうもののそれがストレートな会津藩ものにはならず、斎藤一の話になる辺りがこの作者。を「いや、だってほら今放送中のドラマの便乗企画だから」という口実のもとにまんまと少女マンガ誌でむさっくるしい新選組を描いてのけることに成功した、という気配がほの見えてます(笑)。
この8年ぶりの新作で、自分がこの人の描く新選組を好きな理由を改めて確認できた気がしました。
以前に「龍馬伝」の視聴日記をやってた時に書いた憶えががありますが、「さよか」((c)斎藤美奈子)があっちゃいけないんですね、歴史ものは。登場人物がその行動をするのは、だって事実そうだったからなんだもん、では駄目。史実をただなぞっただけのストーリーでは作品として成立していない。あくまでも、この物語の中でのものとして人物像は確立していなければならないし、言動にも必然性がなければなりません。
で、ちょっと話がずれてしまうんですが(汗)、そういう意味で「八重の桜」はいささかおとなしいかなというのが私の感想です。先日の、会津藩一行が京都に到着してから松平容保が過激攘夷浪士への怒りをかき立てられるまでのくだりは、司馬遼太郎「王城の護衛者」をそのまま映像化したかのように見えました。「そうそう、いかにもこんな感じ」ではあっても、「このドラマならではの容保公」というようにはあまり見えないんですね。「新選組!」や「篤姫」や「龍馬伝」や、そして幕末ものではありませんが去年の「平清盛」のような、「こう来たか!」はないんです。
その点、菅野文描くところの新選組は「こう来たか!」満載。斎藤一と会津藩との関わりをどういうものとして設定するか、壬生浪士組に加わった理由は何なのか、土方歳三との関係は──全てが「この物語の中での出来事」としてきっちりと構築し直されています。やがて斎藤の妻となる時尾や中野竹子といった脇役陣の登場の仕方も、ただ単に幕末史における会津の有名な名前を出してきたという感じがありません。
短期集中連載のまだ第1回目を読んだだけですが、数ある新選組マンガに新たな名作が加わったという確信を既に覚えています。