「スポーツは報復合戦の宝庫なのである。」 奥田英朗 | 手当たり次第の読書日記

手当たり次第の読書日記

新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。

オリンピックの男子サッカー3位決定戦は日本対韓国という顔合わせでした。

というだけならまあ試合(と両方のテレビ桟敷の観客達)が普通にヒートアップするだけで済んだのでしょうが、よりにもよってこの試合の直前に、韓国の李大統領が両国の揉め事の種である竹島に上陸するというパフォーマンスをやらかしたため、ヒートアップのレベルが尋常じゃなくなってしまいました(苦笑)。

勝った韓国代表の選手の1人が、試合後に竹島領有権を主張するメッセージを掲げたということで問題になっています。オリンピックでは、政治的主張を持ち込むことは内容の如何に関わらず御法度ですからね。勿論彼自身も短慮だった訳ですが、元はといえば大統領がいけませんよ。任期が残り僅かで支持率も低く、次の選挙の為にはパフォーマンスが必要だったのだそうですが、百歩譲ってせめてこの試合が済んでからという訳にはいかなかったんでしょうか、ほんとにもう。

で、昨日今日とツイッターのタイムラインを眺めていたら、「スポーツに政治を持ち込んではいかん」という正論があちこちで語られていた訳なのですが。


 スポーツの世界は因縁対決の宝庫で、政治が絡むほど面白いという皮肉な面も持ち合わせている。


奥田英朗さんがこう言い切っていたのを思い出しました。


 サッカーのダービーマッチは、どこも宗教と階級の代理戦争であるし、かつてオリンピックの黄金カードは、バスケットボールも、アイスホッケーも、アメリカ対ソ連であった。日本人にはピンと来ないが、ホッケーのインド対パキスタンは、戦争並みの盛り上がりを見せている(核保有国同士の隣国対決なんですね)。当然、主催者とテレビ局にしてみれば、これはドル箱にほかならない。


この文章が書かれたのは2010年秋。「中国漁船の領海侵犯事件と、その後に起きた中国側の報復措置により、すっかりチャイナ・アレルギーになってしまった日本人」という頃です。

スポーツ雑誌「Number」に連載されていたこのエッセイ、しかしさすがは筆者が小説家、第1回からしていきなり悪役横綱朝青龍の存在意義を力説したりしていたんですよね。日中関係が険悪になっているというのなら、スポーツ界もそれに乗っかれという話になるんです。


 サッカーと野球なら、まず日本が勝つ。中国代表チームを我が国に呼んでコテンパンにやっつけるのはどうか。日本人、溜飲を下げる。中国人、血管ぶち切れて領事館に押しかける。で、中国は報復措置として、卓球とバドミントンの中日戦を地元開催する。もちろん中国が圧勝するだろうから、中国人、大よろこび。日本人、苦虫を噛み潰す。双方、ナショナリズムのいいガス抜きになるのではないかと、わたしは思うのである。


これですよ。

「ナショナリズムのいいガス抜き」であるということ。

ここが大事なんです。

なのに、ガス抜きどころか余計に煽って火に油を注ぐようなことをやっちゃったのが、今回の李大統領パフォーマンスに始まる一件でした。

どちらとも言えません/奥田 英朗
¥1,260
Amazon.co.jp